2013年12月7日(土)、とある男がホーチミンに降り立った。
彼の名前は藪下成仁(やぶしたなるひと)。
今年9月に早稲田大学を卒業した、鹿児島出身、23歳。

*バリアブンタウへ出陣前の藪下氏(ベンタイン市場前にて)
彼はこれから、ベトナム南部にあるバリアブンタウ省にある
バリアブンタウ大学東洋学科にて、日本語教師として働く予定だ。
6か月間の契約。ボランティア扱いのため、給与は食べていけるくらいが支給される。
そのような条件の中、なぜ彼はバリアブンタウで働くことを決意したのか。
また彼は何を目指しているのか。
これから彼が起こすであろう流れにワクワクしている身として、
彼への応援も兼ねてここに書くことにする。
◆きっかけは元教え子からの1通のメッセージ今回の求人は、バリアブンタウ大学で働く私の元教え子からのメッセージが始まり。
「先生、今、うちの大学では日本語のボランティア教師を探しています。今年の12月から先生の知り合いでバリアブンタウで働きたいという若い人はいませんか」とのこと。
連絡を受けた瞬間は「いやー、それは流石に無理でしょ。しかも若い日本人っていってもほとんど働いているからな。しかも12月ってあと一か月後じゃん」というのが正直な所でした。
もちろん、バリアブンタウはベトナム在住者かつホーチミンに住んでいる人であれば大体知っている地域です。でも、日本人にとっては馴染みが薄く、そんなところに、しかもボランティアで飛び込んでくる人なんていないだろ。と思っていました。
ただ「大事な教え子からのお願いだし、Facebookには載せておこう」という気持ちもあったので、とりあえず投稿をしました。
*以下原文ママ。ご覧の通り、かなりざっくりしています。
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【ボランティア日本語教師@ベトナム募集中!】
私のフエ時代の学生が、現在、ベトナム南部のバリヤブンタウ省にある
バリヤブンタウ大学で日本語教師をしています。
現在、3か月から6か月(1年以上も可能)
の日本人の日本語教師を募集しているとのことです。以下が条件みたいです。
・ビザ手配
・無料の部屋を貸出(エアコン・インターネット・パソコン・テレビ・シャワー付き)
・給料も出ます
・対象者は大学卒業した方 とのこと。
バリヤブンタウは石油が出る関係でベトナムで一番GDPが高いところとして有名です。最近、日系企業の進出もあり発展の余地がかなり見込める土地だと思われます。
9月卒業をして、半年時間がある方などおススメです。
興味ある方は川村までメッセージください!かしこ
川村
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「よしよし、これで約束は果たした。」と思い、FBを閉じようとしました。その間5分。
FBメッセージ欄に何やら一通のメッセージが。
*以下原文ママ
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川村さんへ
はじめまして!Facebook上でフレンドの薮下成仁です。
川村さんの、日本語教師を探しているという投稿をみて、ぜひやりたいです!
僕は、昨年9月に早稲田大学政治経済学部を卒業し、現在は一級建築士の資格を取るべく製図の勉強を独学でしています。
予定では、来年の春より通信制の大学に編入学し、設計事務所でバイトをしながら二年で大学卒業し、二級建築士資格取得とともに、設計事務所で働くつもりです。
それで今回、川村さんのお話に非常に興味があります。
と言いますのも、僕は大学一年生(2008年秋)より四年間、道塾という学習塾でこの身を投じてきました。
在学中は、「卒業後も教師として仕事をしていこう!」という意志で、就職活動も教育一本でやってきました。京セラ、KDDIを創った稲盛さんのような熱い魂で、教育業に携わりたいと思ってきました。もちろん、いまも変わりません。
でも、どうしても子どものころからの夢であった建築士という職にも携わりたくて、建築設計の道も自分の選択肢内にいれて、今を生きています。
だからもちろん、川村さんの今回のお話を聞かなければ、大人しく設計の勉強しながらバイトをし、無事来年の春から通信制に通う予定でした。
しかし、川村さんの今回のお話がかなりアツいものなので、やってみたくてたまりません。なぜなら、
1. 僕は、高校二年のころから他の国で生活することに憧れてきたが、お金を言い訳にして、今まで諦めてきたから、今度こそ叶えたいという気持ちがあります。
今年の冬から来年の春まで、いや秋までなら、ベトナムという地で、教育業の仕事をしながら、建築の勉強も両立してやりたいです。
英会話能力なら、なんとかできます!
昨年夏に、Couch Surfingを通して一ヶ月に22人の海外旅行客を自宅に招き、拙い英語を鍛え、人生初の海外旅行として一ヶ月間スウェーデンに行きました。
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Σ(°Д°υ)<興味ある人イターーーーーーーーーーーーーーーーーー!
この時点で、藪下さんとは直接会ったことはなく、このやりとりが初めてでした。
しかし、投稿→返信までの5分間でよくぞここまでメッセージを書けるものだなと感心してしまったことを今でも覚えています。おそらく日頃アンテナを張っていて、既に自分の気持ちは言葉にしていたから、ここまでの文章を書けたのだと思われます。
その後、何度かスカイプでの面接、及びバリアブンタウ大学へのご挨拶も行いました。
話はトントン拍子に進み、昨日より彼は本当にベトナムに来て、明日より勤務をすることになっています。
◆特技は‘独学’彼とのやりとりを通じて一番驚いたのが、履歴書にある「特技欄」でした。
彼は特技欄に‘独学’と書いていました。
最初に見たときに、「???」と思ったのが正直な所でした。しかし、話を聞いていくうちに「こいつはとんでもない大物なのかもしれない」と思うようになりました。
例えば、彼は100年の歴史がある実業系の高校に通っていました。
その歴史の中で初めての早稲田大学政治経済学部に現役で入学。しかも、全て独学。
高校入学当初はやさぐれていて、そんなに勉強しなかったそうだ。しかし、稲盛和夫氏の著作と出会い、「自分がいる環境を受け入れて全力を尽くすことが大切なんだ」と痛感。
その後、猛勉強を始め、直ぐにぶっちぎりの学年1位に躍り出たとのこと。
これを象徴するエピソードとして、「入学後の特待生枠の獲得」というものがある。
高校2年のとき、様々な事情から、彼は学費の面でどうしても学校側との折衝が必要だった。そんな中、彼が出している圧倒的な成績、そしてその背景にある努力を知っていたある先生が、学校側と直接交渉をし、異例の「入学後の特待生(=学費免除)扱い」となったとのこと。藪下さん自身はこのことにとても感謝の気持ちを感じていて、未だに母校には強い愛情を持っているそうです。
その他にも、「大学入学後のゼミで頑張りまくった結果、母校である高校初の指定校推薦枠を設けることに成功した」こともある。これも、藪下さんの頑張りと成果に共感をした指導教授が、自ら推薦枠を作ってくれたとのこと。
そして藪下さんの独学エピソードの極め付けが「スウェーデン式教育の飛び込み調査」だ。
大学3年生のあるとき、「英語を話せないといかん!」と思い立った彼は、如何にお金を掛けずに、かつ最も効率的に英語を話せるようになるかを考えました。
最初に行った企画が‘日本にいる外国人観光客へのガイド’である。
自身がシェアハウスにいたこともあり、宿としても開放して、積極的に交流を図りました。
そして、それだけに飽き足らず、「日本が全く感じられない場所で英語を鍛えよう」と、
ガイドで縁のあったスウェーデンに飛び込み訪問。
折角だからということで、自身が興味を持つ「教育」というテーマを勝手にして、
1か月間スウェーデンで過ごしたそう。
しかも航空券などの諸経費すべて込みで8万円で過ごしたそうです。途中、現地の大学も友人の好意から聴講させてもらうことになり、プチ留学生として、現地の大学生とも交流を図っていたとのこと。
(このスウェーデン式教育については滅茶苦茶興味深い話ばかりでした。
‘シェア’‘フェア’‘公共心’という3つのキーワードが特に興味をそそられました。
これは1年以内にいくしかない。この内容については別途ブログで書きます。)
このように、彼は「今ある環境を受け入れ、どうしたら、お金を掛けずに、
かつ目標達成に向け効果を最大化するか」という能力(=これが‘独学’ということなのでしょう)
に非常に長けていると関心してしまった。
◆天は自ら助くるものを助く自分がなしとげたい目的や、目標に対して、
「自分の頭を使って考え、行動し続けること」=‘独学’なのだと感じました。
特に、安易にお金を使って、面倒なことをショートカットせず、
自分の目的に対して、効果を最大化するにはどうしたいいのか。
を考え抜いている姿には感動すら覚えました。
今回のボランティア講師の件についても、
採用が決まると、直ぐに、周りの日本語教授法をこれまで独学で勉強。
しかも知人を辿って、海外で日本語教師として働いている方達からもアドバイスを求め、
一瞬で計画表を作っていました。
彼を見ていると「学ぶ」原点とは、誰かに言われるまでもなく
自分で興味があることを発見し、
それを自分で探究していくことなんだなと思い知らされます。
しかも、藪下さんが素晴らしいなと思うことが、
節目節目で回りが応援したくなるような人柄なんだとも思います。
高校時代にしろ、大学時代にしろ、彼の学ぶ姿勢に打たれた先輩たちが、
彼を何らかの形でサポートしています。
今回、ホーチミンに来てくれた時も、とある知人を紹介しました。
その時も藪下さんは真摯に、「今、この人に貢献できることは何だろう」ということを考え、
相手の強みや良い点を引きだそうと話をし続けていました。
そんな人に対する真摯な姿勢、そして自分に対する厳しさが、
周りが自発的にサポートしたくなる所以なのでしょう。
藪下さんは明日より、文字通りゼロからベトナムでの生活・仕事を始めます。
今のところバリアブンタウには一人の友達や知り合いがいません。ベトナム語も全く分かりません。
それどころか、お金もありません。まさに、3年前の私、川村と全く状況が同じです。
ただ、バリアブンタウはこれからの発展が見込まれている地域であり、
日系企業の進出も相次ぐ、注目されている地域です。
その中で、基幹人財となる日本語学習者をまとめるバリアブンタウ大学に、
中の人として関わる予定の藪下さん。これからどんな動きを自ら創りだすのか、
とても楽しみです。
きっと、ベトナムでも‘独学’精神を発揮し、仲間を作り、地域に貢献し、
バリアブンタウにはなくてはならない存在となっていくに違いありません。
私も微力ながら、サポーターの一人として、そしてライバルとしても、
彼と切磋琢磨していきます。皆さん、藪下成仁をどうかよろしくお願いします!
川村